1. KAWASHIMA Stories
  2. CULTURE
  3. あれっ? 七福神なのに六神  祇園祭「菊水鉾」の鉾を飾る織物の前懸

あれっ? 七福神なのに六神  祇園祭「菊水鉾」の鉾を飾る織物の前懸

あれっ? 七福神なのに六神  祇園祭「菊水鉾」の鉾を飾る織物の前懸

京都の夏の風物詩「祇園祭」は、ユネスコの定める無形文化遺産にも登録される歴史あるお祭りです。豪華に飾りつけられた山鉾(山車)が街を巡行する様子は「動く美術館」とも呼ばれ、山車を彩る幕にも、色々な秘話があります。

TAG

織物になった七福神

こちらの織物、七福神をテーマに織り上げたものです。
七福神とは幸運をもたらすという神様。たしか7神いらっしゃるから七福神なはずなのですが、こちらには、どう数えても6神しかいません。

左上:前懸「ゑびす神と大黒天」 右上:左面胴懸「福禄寿と寿老人」 
左下:右面胴懸「毘沙門天と弁天さま」 右下:後懸「布袋さま」

大黒天、福禄寿、寿老人
毘沙門天、弁天さま、布袋さま・・・。
あっ、ゑびす神がいらっしゃらない!

ゑびす神はお留守  烏帽子や釣竿は忘れ物?

左上の織物に舟が浮かんでいます。舟には、烏帽子や釣竿、魚籠があるのがお分かりになりますでしょうか? これらはゑびす神の持ち物なのです。これは、ゑびす神そのものを描く代わりに、烏帽子や釣竿、鯛の入った魚籠など、対象の人物を表すシンボルを描くことによって、そのイメージを想起させるという手法で、留守文様(るすもんよう)と呼ばれています。

こちらは京都の夏のお祭り祇園祭の山鉾巡行に登場する34基の山車のひとつ「菊水鉾」(きくすいほこ)を飾る織物の幕です。この七福神がデザインされた幕は、鉾の前面を飾る前懸(まえかけ)、左右を飾る胴懸(どうかけ)2枚、後側面に掛けられる後懸(うしろかけ)の計4枚です。
前懸には留守にされている「ゑびす神」と「大黒天」
左側の胴懸に 「福禄寿」と「寿老人」
右側の胴懸に 「毘沙門天」と「弁天さま」
後懸には 「布袋さま」
が描かれています。

なぜ七福神なの?
なぜゑびす神は留守文様にしたの?

ではなぜ、菊水鉾の幕に七福神が採用されたのでしょうか?
それは、菊水鉾の歴史に関係があります。祇園祭の鉾や山は、鉾町(ほこちょう)と呼ばれる町内会の様な各地域で維持管理されています。菊水鉾を有する地域は現在、「菊水鉾町」という地名になっていますが、かつて、ここに夷(えびす)社があったことから古くは「夷三郎町」といい、ゑびす神をご神体とする「ゑびす山」が巡行に参加していたのです。

これに因み、江戸前期に御用絵師として活躍した狩野岑信(かのうみねのぶ・1663~1708)が描いた「七福神図巻」(板橋区立美術館蔵)を元に、4枚の幕に七福神を表現することになったのです。
そしてなぜ、ここにゑびす神がいらっしゃらないか、というと、ゑびす山に引き続き菊水鉾もゑびす神をご神体としており、既に屋根の上にゑびす神がいらっしゃるので、幕の方は留守文様とすることになりました。
ちなみにご神体のゑびす神、何しろ屋根の上にいらっしゃるので、下から見上げたのでは全く見えず、鉾に乗ったとしてもほとんど見えないため、あまり知られていません。

菊水鉾前懸「ゑびす神と大国天」織下絵(部分)
織下絵のため、左右反転しています

狛犬もいるよ! 左面胴懸

次に左右の胴懸からエピソードを。
左面の胴懸の寿老人(じゅろうじん)(織物では左側)の脇に香炉があります。狩野岑信の「七福神図巻」には獅子香炉が描かれていたのですが、祇園祭を行う八坂神社の境内の狛犬の姿を香炉にして織り込みました。

菊水鉾胴懸(左)「福禄寿(ふくろくじゅ)と寿老人」(部分)(左)と八坂神社の狛犬(右)

また、毘沙門天(びしゃもんてん)と弁天さまは、ともに右を向いていらっしゃるので、鉾を曳いて進むときに後ろを向かれることがないよう、右面の胴懸に配しています。毘沙門天がお召しの甲冑(かっちゅう)の文様は、もともと亀甲文(きっこうもん)でしたが、毘沙門亀甲に変更しました。

菊水鉾胴懸(右)「毘沙門天と弁天さま」原画(部分)(左)と毘沙門亀甲(右)

また4枚に共通して、これらの七福神を囲む枠は、菊をあしらったデザインとしました。漁業の神様であるゑびす神を表す波文とあわせて、菊水の意味を込めています。

菊水鉾後懸「布袋さま」(部分)

このように、お祭りやお祝いごとに関わるような織物では、言われや意味を勉強しながら、デザインすることが多くあります。この菊水鉾の懸装品の製作では、鉾町の方々や有識者など様々な方のご指導やご協力を頂きながらデザインを決定していきました。

幾度の苦難を乗り越えた菊水鉾と幕
祈りを込めて 裏書

祇園祭の山鉾は、火災や戦災などにより焼失に見舞われてきたものが多くあります。菊水鉾も例外ではなく、天明の大火(1788)、そして元治元年(1864)の蛤御門の変に伴う鉄砲焼けで焼失し、1953(昭和28)年に88年ぶりに復興しました。
こちらでご紹介した幕は、鉾の再建60年を記念して、2013(平成25)年に新調することとなったもので、2012年から2015年にかけて川島織物セルコンが製作し、納入しました。
こうして織り上がり、赤い羅紗(らしゃ)や房をつけて仕立てられた前懸の裏書には、製作年月などとともに菊水鉾保存会の方々の思いが記されています。

菊水鉾前懸「ゑびす神と大国天」裏書

これから数百年に亘って使われるであろう、この4枚の幕とともに、思いも長く伝えられていくことを願っています。

川島織物文化館では2021年8月31日(火)まで、長浜曳山祭(ながはまひきやままつり/滋賀県長浜市)の 常盤山(ときわざん)、祇園祭(京都府京都市)の 菊水鉾 などの懸装品の原画や織下絵など、阪南秋祭り(はんなんあきまつり/大阪府阪南市)の東鳥取五地区自然田上組(ひがしとっとりごちくじねんだかみぐみ)の幕をご紹介する「祭の幕」展を開催しています。
昨年に引き続き祭の中止が相次ぐ中、少しでも祭りの雰囲気を感じていただければと思います。

祭の幕

会期開催中 〜 2021年8月31日(火)(予定)
会場川島織物文化館
開館時間10:00 ~ 16:30(入館は16:00まで)
休館日土・日・祝祭日、夏期、年末年始
(川島織物セルコン休業日)
入館料無料
関連リンク展示情報
祭の幕 チラシ
その他※ご見学は完全事前予約制です。
※新型コロナウイルス感染防止のための対策を講じた上で、運営をしています。
 ご理解とご協力をお願いいたします。
 詳細は ホームページ をご確認ください。 

NEW ARTICLE