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美しき古裂の世界へのいざない 裂地コレクションで43年 川島織物セルコンのカレンダー

美しき古裂の世界へのいざない 裂地コレクションで43年 川島織物セルコンのカレンダー

近年は様々な形態のカレンダーがあります。最近はスマートフォンのカレンダーアプリを使われる方も多くいらっしゃいますが、紙のカレンダーや手帳も根強い人気があるようです。ポスターのような美しい印刷、豊かなデザイン性、多彩な題材など選択肢も多く、実用を兼ね備えつつ生活を華やぐ一部として定着しているからでしょうか。
川島織物セルコンは、オリジナル紙カレンダーを現在も作り続けています。カレンダーならば、普段ご紹介することが難しいいにしえの裂地をご覧いただくことが出来るからです。

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古い染織品をご覧いただくために

川島織物セルコンのオリジナルカレンダーは、発行を始めた当初から図版には川島織物文化館の裂地コレクションを採用しています。この裂地コレクションは、川島織物の初代と二代の川島甚兵衞が、世界の染織品を調査研究し、新商品を開発するために収集した古今東西の名だたる染織品などで、川島織物文化館の収蔵品の核を成すものです。またこれらの裂地は、現在でもデザインや技法のソース、新たな技術開発の参考として活用しています。
ただ、大変古い物ですので、長期間展示してご覧いただくということが年々難しくなっています。当社の創造力の源泉ともいえるこの裂地コレクションを、オリジナルカレンダーに掲載することで広くご紹介できればとの思いから、図版として採用、毎年、3月頃から選定作業にはいり、選りすぐりの逸品12点を選び出しています。

コプト裂「有翼童子文綴織(うよくどうじもんつづれおり)」

2023年のカレンダーには様々な良縁が末永く続くことを願い、丸や円の文様をキーワードに裂地をセレクトしました。その中で最も古い染織品のコプト裂「有翼童子文綴織(うよくどうじもんつづれおり)」をご紹介します。

コプト裂「有翼童子文綴織」

コプト裂とは、3世紀頃~12世紀頃にエジプトのキリスト教徒によって作られた染織品をさします。エジプトは紀元前30年にローマ帝国の有力な属州となりましたが、同時に1世紀頃からと早くからキリスト教が浸透した地域の一つでもありました。
このローマ帝国の支配下で作られたコプト裂は、古代エジプト文明、ローマ帝国によって持ち込まれたギリシャ・ローマ文化、更に初期キリスト教の思想やモチーフ、7世紀以降のイスラムの侵攻による影響までが取り込まれた、多彩な題材が特徴です。多くは亜麻糸(あまいと)の経糸(たていと)と羊毛の緯糸(よこいと)で織られ、技法は綴織が最も多く、輪奈織(わなおり・パイル織)なども見られます。

「有翼童子文綴織」は4世紀頃に製作されたと考えられ、僅か約20cm四方の裂地の中央に翼を持つ童子、その周りには円輪、更にその外側に蒲萄の葉を、綴織と斜浮織(ななめうきおり)と呼ばれる技法で織り出しています。

コプト裂 「有翼童子文綴織」の一部を拡大、目盛は1mm

素材は経糸が未晒(みざら)しの亜麻糸、緯糸は白い部分と細い白い糸が未晒しの亜麻糸、濃い色の部分は紫に染色された羊毛が使用されています。撚りは経糸、緯糸ともにS撚りです。
驚くほど細かく柄を織り出した綴織部分からは、確かな製織技術が見て取れます。一見、刺繍(ししゅう)に見える白い斜めの線は、綴織と同時に織り込んだ斜浮織の緯糸(亜麻糸)です。これは必要な部分だけに緯糸を織り込むという、非常に手間のかかる織り方ですが、極細の糸が綴織の表現を補って更に繊細な表現を生み出し、約1,700年前のものとは思えない生動感のある表現豊かな裂地となっています。
コプト裂は衣服(チュニック)やタオル・間仕切りなど、身の回りの布全般に使用されたと考えられていますが、この有翼童子は衣服に用いられたと推測されています。どんな人物のために作られたのでしょうか。想像するのも楽しいものです。

43年の変遷-川島織物セルコンオリジナルカレンダーの歴史

川島織物セルコン・カレンダーは、1980(昭和55)年から40年余りの歴史を持ちます。少しその変遷についてお話をさせてください。

表紙には発行当初から2008(平成20年)年まで、川島織物セルコン文化館所蔵の『西陣織物器械図説(にしじんおりものきかいずせつ)』に掲載されている織機などを取り上げていました。
この『西陣織物器械図説』は1872(明治5)年頃に描かれたもので、その名の通り織物の器械や道具が詳細に図解されています。特に「高機の図(たかはたのず)」は「空引機(そらひきばた)」と呼ばれた当時の紋織用織機の詳細を知る上で、染織史上非常に貴重な資料として知られています。その反面、意外と知られていないのが、『西陣織物器械図説』の表装形状で、縦32.2cm・横10.8cm・高さ10.3cmの木箱に巻子(巻物)の状態で収納されています。


『西陣織物器械図説』より「髙機左面之圖」

さて、カレンダーの形状は?と言いますと、1980(昭和55)年に制作した初号は、縦35.9cm・横23.0cmと小さなサイズで、綴じ部分はワイヤーのスパイラルリングでした。翌年からは一変、サイズも現在とほぼ同じ縦45.0cm・横29.7cmと大きくなり、分別が容易なハンガー形のヘッダーへ、1996年(平成8)年からは紙のヘッダーを用いるようになりました。現在は分別廃棄が当たり前の時代、いち早く紙のヘッダーに切り替えたことは、今のエコ活動に繋がっている気がします。また、1997(平成9)年からはより環境に配慮できないかと、再生紙を採用しました。

各ページのデザインは、1980年から1998年までは、1ページに2カ月分の月日を左右に表記し、図版を中央に配した縦型のレイアウトでした。


左から 1980年カレンダー、1983年カレンダー

表紙を含めて7ページで構成されていましたが、1985(昭和60)年からは最後にもう1ページを追加し、会社や川島織物文化館の紹介などを盛り込みました。1999(平成11)年からは、各月1ぺージにしてページ数を増やし、レイアウトを大きく変更。上部に裂地コレクションの図版を、下部に日にちを配する形に変更しました。

様々な変遷を経たカレンダーは、20年目の2000(平成12)年、第51回 全国カレンダー展において『日本印刷新聞社賞』を受賞。その後も2004(平成16)年の第55回、2018(平成30)年の第69回で入選をいただきました。


左から 2000年カレンダー、盾、賞状、2004年カレンダー、賞状

2007(平成19)年からは、各月に掲載した裂地コレクションの解説(裂地の全体写真・実物大写真・拡大写真)を最終ページに掲載、各月毎に切り離してカードとして保管いただけるようにしました。これらの写真は、裂地の実態が把握でき、拡大写真は肉眼では見えない、染織品の製作方法がわかるくらいまで拡大して掲載しています。

また、実物の裂地コレクションと試刷を直接比較し、色もなるべく忠実に再現できるようにしています。


「利休鼠地に松葉網干模様小袖(りきゅうねずみじまつばあぼしもようこそで)」と、試刷を比較(2023年8月掲載)

参考情報

2023年カレンダー掲載コレクションを特別展示中です  ~ 2023年1月31日(火)

川島織物文化館 公式ホームページ

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