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旅する花鳥画

旅する花鳥画

ここ25年程前からでしょうか、国内外の美術館や博物館が主催する特別展の企画に、川島織物文化館の収蔵品への借用依頼が少しずつ増えてきたのは・・・。

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川島織物文化館の収蔵品

川島織物文化館では、16万点に及ぶ作品や史資料を保存管理しています。これらは川島織物の創業者である初代川島甚兵衞や二代川島甚兵衞らが収集した古今東西の織物文化に関する珍しい裂地や古書や、自社のモノづくりの歴史や製作方法を知る上で欠かせない貴重な資料です。

川島織物文化館の収蔵庫の裂地(きれじ)見本帳  古き良き織物を今に伝えている

その膨大な作品や資料の中で、平成8年頃より整理を進めてきたのが、当社が織物を製作する際に用いてきた図案類です。特に明治中期から昭和初期に制作したものを中心に、綴織(つづれおり)の原画や織下絵、紋織(もんおり)の正絵など、帯から巨大な室内装飾織物に至るまで様々な図案を紐解き、補修を行ってきました。

オリジナル商品の開発基地! 川島考案部

これらの調査を進める際にポイントとなるのが、明治20(1887)年に二代甚兵衞が創設した「川島考案部」です。川島考案部は、川島織物オリジナルの新商品を制作するため、日々、意匠(デザイン)の考案に取り組んでいました。
川島考案部が出来たのは、明治19(1887)年、二代甚兵衞がヨーロッパへ織物の視察に行ったことがきかっけです。ヨーロッパで建築に使用される織物の調査として8カ国を歴訪した二代甚兵衞は、まず、西欧建築の内装に多くの織物が使用されていることを知り、日本の織物の需要が伸ばせると確信しました。次にフランスのゴブラン織工場で行った詳細な調査から、大きな織物の持つ力を感じ、これまで細々と小さなものを中心に織られていた日本の綴織を改良し、ゴブラン織に勝るとも劣らない大きな綴織を製織することを考えます。そして帰国して間もなく取り掛かったのが、綴織壁掛の原画制作でした。

川島織物考案部 大正2(1913)年12月頃

川島考案部の初仕事 花鳥画「藤花に水鳥」

まず二代甚兵衞は、当時一流日本画家として有名であった久保田米僊(くぼたべいせん/1852-1906)に原画の制作を依頼します。描き上げられたのは「藤花に水鳥」という、まるで楽園のような花鳥画でした。次にその原画を基に織物の設計図である織下絵を制作するため、京都絵画学校に在学中で、日本画家 巨勢小石(こせ しょうせき/1843-1919)の第一門下生であった東翠石(あずま・ひがし すいせき/生没年不詳)を含め3名を雇用しました。京都の三条にあった二代甚兵衞の本宅2階を考案部の画場として、綴織および刺繍製品の図案調整を開始しました。翠石は川島考案部最初の主任画師となり、「藤花に水鳥」は川島考案部の初仕事として、当社の綴織壁掛の第一号となりました。

 久保田米僊が描いた綴織壁掛の原画「藤花に水鳥」と覚書き

室内空間に広がる癒しの植物

また、二代甚兵衞は帰国後、直ちに室内装飾織物(インテリアファブリック)の製作に取り掛かっています。これらの図案に多く見られるのも ”花鳥画” です。特に美しい花を咲かせる植物は、 なんと言っても 無くてはならないアイテムの一つだったようです。

全て川島織物製の織物で構成した川島織物参考館 3階 明治22(1889)年
川島織物参考館の綴織壁面「光琳四季草花」部分 植物が織り込まれている 

川島織物の商品の大多数は川島考案部が手掛けたものですが、二代甚兵衞は当時活躍中の画家にも織物の原画制作を依頼しました。川島織物文化館では、これら織物図案 1点1点の存在意義は極めて高いと判断し、近年、原画や織下絵などを調査研究し、描かれた当時の様子が感じられるよう、また後世に長く伝えて行けるよう地道な補修作業に取り組んできました。
展示が可能な状態にまで回復すると、織物図案の域を超えて一つの芸術的作品としても認めていただけるようになり、美術館や博物館で展示いただくことも増えて来ました。

谷口香嶠(たにぐちこうきょう/1864-1915)が描いた綴織椅子張用の原画

美術館や博物館に飾られる絵としては超特大級

さて、川島織物文化館の収蔵品の中でも特に大きな花鳥画と言えば、綴織壁飾織下絵「百花百鳥」です。これは明治38(1905)年、ベルギーのリエージュで開催された万国博覧会に出展するために構想した室内装飾「百花百鳥の間」の四方の壁面用の織下絵で、日本の移ろいゆく四季を現した4面からなる連作です。この考案を具現化するため二代甚兵衞は、花鳥画の大家で ”桜を描かせると右に出るものはいない” と称された菊池芳文(きくちほうぶん/1862-1918)に原画と織下絵の制作を依頼しました。

下関市立美術館で公開中

綴織壁飾織下絵 「百花百鳥」の綴織壁飾織下絵4面のうち、3面の補修が完了しており、これまでに、東京国立博物館や大阪市立美術館、名古屋市博物館、名都美術館、秋田市立千秋美術館、笠岡市立竹喬美術館など様々な館で展示紹介いただき、現在、下関市立美術館(山口県下関市) で開催中の特別展「自然の秘密をさぐる」(2021年3月14日まで)で紹介をいただいています。
特別展「自然の秘密をさぐる」 は、下関を拠点に活動した日本画家・高島北海(たかしま ほっかい/1850-1931)の没後90年を記念する展示会で、北海以外にも、自然に魅了され、その秘密を創作活動のなかで 探求した芸術家や研究者たちの作品や資料が紹介されています。
この特別展で着目されたのが、モノづくりへの飽くなき探求心と、こだわり抜いて生み出してきた二代川島甚兵衞が織り成す花鳥画の世界です。
川島織物文化館の収蔵品より、選りすぐりの全5点を展示紹介いただいていますが、中でも目を引くのが、巨大な織下絵「百花百鳥」です。展示室では幅の広い壁面用の織下絵「桜に紫陽花」1面を大空間の展示室で鑑賞することができます。縦326.1㎝・幅721.7㎝という大きな作品ですが、その繊細で丹念な筆遣いは、描かれた生きもの全ての生命と息吹を感じさせてくれます。

下関市立美術館で 織下絵「百花百鳥」

この作品を展示するためには、とても大きな展示スペースが必要です。次はどちらの美術館や博物館で紹介していただけるでしょうか・・・。私達スタッフもひそかに楽しみにしています。

自然の秘密をさぐる ―高島北海没後90年記念―

会期 開催中〜2021年3月14日(日)
会場下関市立美術館
開館時間9:30 ~ 17:00(入館は16:30まで)
休館日
参考詳細は美術館公式HPでご確認をお願いします。
特別展サイト
http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/bijutsu/shizen.html
下関市立美術館 公式サイト
http://www.city.shimonoseki.yamaguchi.jp/bijutsu/

川島織物文化館 HP

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