1. KAWASHIMA Stories
  2. CULTURE
  3. オフィシャルな帛紗(ふくさ)、カジュアルな帛紗

オフィシャルな帛紗(ふくさ)、カジュアルな帛紗

オフィシャルな帛紗(ふくさ)、カジュアルな帛紗

贈答時に、贈り物の上にかけて相手への敬意を示すものとして発生し発展してきた掛帛紗(かけふくさ)も、時代とともに様々な変化を見せるようになりました。使うためではなく、記念品や贈答品として製作された帛紗や、おめでたい図柄にこだわらない帛紗も見られます。
川島織物文化館に残る資料から、あまり知られていない帛紗のバリエーションを幾つかご紹介します。

TAG

オフィシャルな帛紗

個人間の贈答に限らず、献上品など公的な席でも使用された帛紗。このような帛紗は、いわばオフィシャルな帛紗と呼ぶことができるでしょう。ここでは国家的な行事に関連した帛紗を見てみることにします。
少し前に行われた令和の即位礼の様子を覚えていらっしゃる方も多いことでしょう。今日から数えて100年ほど遡った、大正の即位礼に際して、帽額(もこう)と呼ばれる織物を当社は製作し納入させて頂きました。
帽額とは、即位の礼に際して御所の紫宸殿(ししんでん)の正面上部軒下に水平に飾られる幕のことで、その寸法は縦 約1.63m・横 約27.8m、即位礼で用いられる染織品の中でも最大級の大きさです。

この即位礼に関連して、帽額のデザインに良く似た帛紗が製作されました。
帽額は非常に細長く巨大な中に日像と五彩瑞雲を配置していますが、この帛紗はコンパクトなほぼ正方形の中に、帽額の五彩瑞雲をアレンジしています。
また、即位式に用いられた帽額は綴織という技法で織られていますが、こちらの帛紗は、同じものを複数織るのに適した紋織で織られ、一枚一枚「御大典記念帛紗」と記された桐箱に納められました。

紋織 御大典記念帛紗「五彩瑞雲」(大正3年頃)

帽額は綴織という技法で織られていますが、こちらは同じものを複数織るのに適した紋織で織られ「御大典記念帛紗」と書かれた桐箱に入っています。この他にも「御大典記念」として全く別の意匠の綴織の大・中帛紗の原画と織下絵が残されています。この時代には既に、帛紗自体が記念品として扱われるようになっていたことがわかります。

配り帛紗

また、こうした公的な要素を持つものに限らず、帛紗自体を贈答するという習慣は個人の間でも存在しました。
昭和初期頃には、米寿・卒寿などの節目に自らの、または著名な作家の揮毫(きごう)・作品を意匠化し帛紗に仕立てて親しい人に配る、あるいは婚礼などの返礼品として帛紗を贈るといった、「配り帛紗」 と呼ばれる風習があったことが伝わっています。
例えば、漢学者・書家・画家・篆刻家であった長尾雨山(1864~1942)の揮毫を織り出した帛紗。この帛紗も、もしかしたら配り帛紗として制作されたのかもしれません。

綴織中帛紗「壽」

このような記念品としての帛紗 も先ほどの記念帛紗と同じように、それ自体が桐箱に入れられて贈られるものでした。
これもまた、今日ではあまり知られていない帛紗の一面を示すものです。

カジュアルな帛紗

贈り物の印として、豪華であればあるほど、敬意を示すものとして発展してきた掛帛紗。一方で川島織物文化館には、これとは少し違った、カジュアルとも言うべき帛紗の資料も残されています。
初代・二代川島甚兵衞が収集した川島コレクションの「東海道五十三次」は、道中双六(どうちゅうすごろく)を帛紗の意匠にしたものです。双六の「上り」を出世に例えた縁起物ととらえることもできますが、改まったご挨拶というより、くだけた雰囲気があります。

縮緬地帛紗「東海道五十三次」

また、最盛期の明治時代から大正時代にかけて川島織物が製作した綴織大帛紗の原画は、当時の台帳に載っているものだけでも837枚を数え、実に様々な意匠があります。その中には、季節のご挨拶には最適ですが、特におめでたいとは言えない意匠のものも見受けられます。

綴織大帛紗原画「葉鶏頭(はげいとう)と秋海棠(しゅうかいどう)」

鮮やかな色彩が印象的な葉鶏頭(はげいとう)と秋海棠(しゅうかいどう)ですが、特におめでたい由来を持つ植物ではありません。
この他、子犬やうさぎの意匠は、一般的には多産・子孫繁栄を表すと言われますが、そんな堅苦しい由来はどこかに置いてしまって、「カワイイ」以外の意味があるとは思えないもの。などなど…。

綴織大帛紗原画「犬ころ」(左)「山うさぎ」(右)

なお、これらの帛紗の原画は、大帛紗の織り上がり寸法である、縦横約75cm×68cmとほぼ同じ大きさで描かれています。現在では、ほとんど見ることがない大きさの帛紗です。
これらの「キレイ」や「カワイイ」を示す帛紗の意匠から推測すると、改まったご挨拶だけではなく、親しい間柄のちょっとした贈り物にも帛紗が使用されていたのではないかと考えられます。これもまた、あまり知られていない帛紗の在りかたです。
そんなことを考えていると、帛紗が急に身近な存在に思えてきます。贈り物には帛紗がつきものだった時代、それを少しでも見て楽しい、嬉しいものに。帛紗とは、 儀礼だけではなく そんな発想も元になって発展したものだったのでしょう。

川島織物文化館では、「贈るこころ 福を呼ぶ帛紗(二)」として、2021年10月29日(金)まで、コレクション・大典記念帛紗など約30点の帛紗・原画を展示予定です。

守りたい贈るこころ「福を呼ぶ帛紗(二)」

会期開催中 〜 2021年10月29日(金)(予定)
会場川島織物文化館
開館時間10:00 ~ 16:30(入館は16:00まで)
休館日土・日・祝祭日、夏期、年末年始
(川島織物セルコン休業日)
入館料無料
関連リンク展示情報
福を呼ぶ帛紗(二) チラシ
その他※ご見学は完全事前予約制です。
※新型コロナウイルス感染防止のための対策を講じた上で、運営をしています。
 ご理解とご協力をお願いいたします。
 詳細は ホームページ をご確認ください。 

NEW ARTICLE