
移ろいの中で紡ぐ景色の物語 – 四神が司る京都 – ミラノデザインウィーク2022を振り返って
- ART

川島織物セルコンは、「織の地層 -Woven Strata-」をテーマにミラノデザインウィーク2026に出展しました。本コラムでは、テーマの着想からリサーチ、織物制作、会場選び、展示・照明設計にいたるまで、その舞台裏をお伝えします。
目次
2026年4月、ミラノデザインウィークで、川島織物セルコンは「織の地層 - Woven Strata -」を発表しました。1843年の創業以来、織物表現と向き合い続けてきた当社が、「地層」や「堆積」という自然のプロセスをテーマに、多様な技法を用いて新たな織物の可能性に挑んだ展示です。長い年月をかけて形成される地層のように、織物もまた、多くの工程と時間の積み重ねによって生み出されます。そこで今回の展示では、「地層」が幾重にも重なってできる自然の営みと、糸を重ねて織り上げる織物づくりを重ね合わせ、素材や織り方そのものを見つめ直すところから始まりました。土や岩肌、地層の質感を織物で表現することで、目には見えない時間の流れや、長い年月の蓄積を可視化することを試みました。

2025年の夏、織物を生み出すためのリサーチが始まりました。インハウスデザイナーで構成される企画・開発チームとそれを実際の織物に落とし込む制作チームは、それぞれ淡路島(兵庫県淡路市)にある「土のミュージアム SHIDO(シド)」を訪れました。SHIDOは、日本の伝統的な土壁や「土」そのものの魅力を、アートや空間を通して体感できるミュージアム・ギャラリーです。

そこで目にしたのは、左官技術や自然素材が生み出す多彩な土の表情でした。風化した表面、ひび割れ、粒子の粗さ、不規則な光の反射――。均質ではない素材ならではの美しさに触れながら、こうした質感や表情を織物でどのように再現できるのか――問いを持ち帰りました。その後、企画・開発チームと制作チームは、それぞれの拠点で、抽象的なイメージを具体的な織物の質感へと落とし込む作業を進めていきます。制作チームでは、異素材の組み合わせや糸の撚り方、そして織物の密度を含めた織組織の設計などさまざまな検証を繰り返しながら、土壁や地層が持つ質感を織物として表現する方法を探りました。

一方、企画・開発チームは、京都の本社工場で織り上がったサンプルを確認しながら、地層や土壁の質感をどのように織物として表現するか、制作メンバーとの検討を重ねました。東京の企画・開発メンバーが何度も京都の本社工場を訪れ、実物を前に意見を交わしながら、企画と制作が一体となって作品づくりを進めていきました。


そして、2025年秋には、こうした試行錯誤の積み重ねによって、抽象的なコンセプトは少しずつ具体的な織物となり、多様な表情を持つサンプルが次々と織り上がっていきました。そして、次は「さまざまな表情の織物をどのように展示するか」という次の課題に向き合うこととなります。
織物制作と並行して進められていた展示の企画では、織物を単なる製品として並べるのではなく、素材が持つ表情や質感を、来場者に身体感覚を通して感じてもらいたい――企画・織物制作全体のディレクションを担当する櫻井は、そう考えていました。そのためには、どのような場がふさわしいのか。櫻井はプロジェクトリーダーの板東とともに、会場探しをスタートしました。まず必要だったのが、十分な天井高のある空間です。今回の展示の中心となる大型タペストリーは、200cm×300cmにも及びます。この作品を最も印象的に見せるためには、そのスケールを受け止められる天井高が欠かせませんでした。

また、テーマである地層や土壁の質感を表現するには、装飾的な空間よりも、素材そのものの魅力が際立つ素朴で余白のある空間がふさわしいと考えました。大型作品を展示できること。そして、織物そのものを主役として見せられること。その二つの条件を満たす会場を求めて、検討を重ねていきました。その際、一つのヒントとなったのが、ミラノデザインウィーク2025のアルコバ会場での体験でした。その年のアルコバでは外の廃工場や歴史的建築を活用した展示が行われており、空間そのものの存在感を生かした空間づくりがなされていました。その体験を振り返るなかで、今回の「自然のプロセス」をテーマにした織物も、整えられた展示空間より、半屋外で、風や光など自然の影響を受ける場所の方が、織物の魅力をより引き立てるのではないか――そう考えたとき、候補として浮かび上がったのが、パオラ・レンティのショールームでした。

会場の候補が絞られてくる段階で、次に取り掛かったのは、展示方法と照明についてでした。今回の作品群は、土壁や地層といった固い素材から着想を得ていますが、実際に触れてみると、それぞれの織物には、テキスタイルならではの柔らかさがあります。見た目から受ける印象と、触れたときに感じる質感の違いを体感してもらうこと――それも展示の重要な狙いの一つでした。特に、ジャカード織で制作した作品は、織物を単なる製品として並べるのではなく、素材が持つ表情や質感を、来場者に身体感覚を通して感じてもらうことを意図した展示を試みました。生地を展示台にはめ込んでしまうような展示方法では、生地そのものが持つ柔らかな表情や自然なドレープが伝わりにくいと考え、会場の持つ天井の高さを活用し、高い位置から織物をレイヤー状に吊り下げることで、生地に囲まれ、没入できるような空間を作る展示構成を採用しました。

照明計画についても、展示構成と並行して検討が進められました。照明計画は、2023年から当社のミラノデザインウィーク出展で展示デザインを担当してきた照明デザイナーの岡安泉氏に依頼しました。今回の会場は、自然光の影響を強く受ける半屋外空間となるため、空間を均一に照らすのではなく、時間とともに変化する光を生かしながら、織物の表情を引き出すことが求められました。そこで、方向や光量をプログラムで制御できるムービングライトなどを活用し、自然光と人工照明が呼応する照明としました。半屋外の環境ではなかなか日中照明は空間をコントロールすることは難しいですが、一方で自然の環境を取り込んだ展示となり、織物は一日の中でさまざまな表情を見せ、静止した展示物でありながら、光とともに表情を変え続ける展示空間が生まれました。

特に夕方から夜にかけては照明が力を発揮しました。また天井部分にルーバー状のレースカーテン生地を重ねた展示によって空気の流れを可視化するような仕掛けも考えるなど、展示空間全体が、半屋外の環境を生かしながら、織物、そして照明が掛け合わされた「自然のプロセス」をテーマとした今回の展示と呼応する演出となりました。

こうして迎えた2026年のミラノデザインウィーク。半年以上にわたる試作や議論を経て完成した「織の地層 -Woven Strata-」は、世界中から集まった来場者に公開されました。会場では、多くの来場者が織物の間をゆっくりと歩き、作品に近づき、時には手で触れながら、その質感を確かめていました。

遠くから見ると土壁や地層のように見える織物が、近づくと柔らかなテキスタイルであることに驚く姿も多く見られました。そして、会場が朝から夕方、そして夜へと移り変わる光の中、来場者は作品単体を見るだけではなく、空間の中を歩き体感することで、会場で移り変わる時。地層というデザインから感じる視覚的な時。そして、織物そのものにかかったクラフトとしての時間。三つの時間を自然と感じ取っていただけたようでした。

企画・開発、制作、展示設計。それぞれの専門性が重なり合い、多くの対話と試行錯誤を経て完成した「織の地層 -Woven Strata-」。「地層」や「堆積」というモチーフを織物に置き換えることで、「時間」という目に見えないものを形として表現しようと試みた今回の展示は、ミラノデザインウィークの会期を通じて多くの方にご来場いただきました。空間や光の力も借りながら、来場者の皆さまに体験として届けることができました。今回のプロジェクトでは、企画・開発チームと制作チーム、そして展示に関わるさまざまなメンバーとの対話を重ねながら、一つの展示をつくり上げました。そして会期中には、来場者との新たな対話も生まれました。そうした対話の積み重ねが、次の織物づくりへとつながっていきます。
地層が今なお形成され続けているように、私たちの織物づくりもまた終わることなく続いていきます。このミラノでの挑戦を糧に、これからも新たな織物表現を探求し、次の一層を積み重ねていきます。
「織の地層 - Woven Strata -」は、2026年秋に東京と大阪で展示を予定しています。ミラノで発表した作品や空間の一部を、日本国内でもご覧いただける機会となります。詳細は当社ホームページにてあらためてご案内いたします。
※本展示は、ビジネス関係者さまを対象としております。 一般の方のご入場はご遠慮いただいております。あらかじめご了承ください。







